31.三宅義明 (東海学園大学)『スタートレックから食品を考える』2006年06月20日

 「宇宙−それは人類に残された最後の開拓地である。そこには人類の想像を絶する新しい文明、新しい生命が待ち受けているに違いない。これは、人類最初の試みとして5年間の調査飛行に飛び立った宇宙船U.S.S.エンタープライズ号の驚異に満ちた物語である」。このフレーズを聞いて、米SF・TV番組「スタートレック」と分かった方もおられるでしょう。1966年にTV放映が始まった「宇宙大作戦・スタートレック」は、カーク船長とか、耳の形が特徴で理論派のバルカン人(宇宙人)・Mr.スポックなどのキャラクターや、高速ワープ飛行、転送(人が瞬時に移動する)など、当時では画期的であったSF用語などで話題になりました。放映終了後も他国放映され、映画、新シリーズが次々につくられ、現在に至っています。私は、小中学生の頃、土日の昼の地元局では、吉本新喜劇や米ヒットTV番組が再放送されており、その中の一つだったと記憶しています。大学生の頃、深夜TVでの再放送や続編「新・スタートレック」をよく見ていたし、1990年代の続編「ディープスペースナイン」、「ヴォイジャー」と、現在の「エンタープライズ」はスーパーチャンネルTVで見ています。超熱烈ファンではないのですが、10年前からほぼ全話を視聴しています。23~24世紀の宇宙探検という設定ですから、フィクションの未来の科学技術内容は結構面白い。異星人とは問題、争いがつきものであるが、1話完結が基本のため、人情劇的に問題解決していくところが好きである。様々な問題を、艦長のリーダシップとクルーが一致団結して解決していくチームプレーは、日常の業務の問題解決の参考にもなったりしました。といっても、純粋に見て楽しめますので、結構お勧めです。

 さて、肝心のスタートレックで登場する未来の食事、食品ですが、フードレプリケーターという機械に希望メニューを話しかけると、ライブリー検索され、瞬時に食べ物の分子が配列・複製合成されて出来上がります。電子レンジでチンするようにできあがるわけです。食品中の全分子が解明されていれば、複製できるのです。他の科学技術の発想が面白いのですが、食事は簡便になることが最大のメリットのようです。しかし、番組を食事、食品からよく見ていくと、結構、話題にあがるのです。食事は単に栄養素を得るためのでなく、会食はクルー間の懇談や異星人との外交・交流に欠かせないものです。異星人の理解には食事の理解が大切な任務です。フードレプリケーターで複製された食事よりおいしいさに勝るシェフの手づくり料理とか、ストレスを緩和する個々の嗜好飲料・食品が登場します。食品の加工技術に大きな進歩はあるものの、食品そのものには画期的な変化は無いようです。未来には、食品そのものに大きな変化はあるのか、ないのか、どうなのでしょうか?

 さて、現在では、食品系の学会やある企業では、スペースシャトルや宇宙ステーション内での食事メニューや食品の開発に携わっていると聞いています。今後、未来にわたってどのように食品が進化していくのか興味あります。食品機能性研究がそのきっかけになることを期待しています。今後のSF界で今後どのように食品が発想されていくのか、興味あります。過去の何千年間、食事の根幹は変わらなかったと思いますが、新たな発想が新食品開発や研究に繋がっていくことも期待しています。・・・ちなみに、スタートレックでは、地球人とのファーストコンタクトのバルカン人は、特異的な長寿であり菜食者でした。

 

32.山本憲朗 (ハウスウェルネスフーズ(株))『検索』2006年07月20日

 みなさん、こんにちは。「C1000タケダ」でおなじみ?のハウスウェルネスフーズ(株)の山本憲朗です。弊社は、2006年の4月に武田食品工業(株)から社名を変更(正しくは、新会社へ業務を移行)しました。プレスリリースの通り、株式比率は、2007年9月までが武田薬品34%、ハウス食品66%。その後はハウス食品100%となり、弊社はハウス食品の完全子会社になります。

 ある経済アナリストの中長期展望では、食品関連企業のM&A(吸収・合併)は、10~20年の間に増加するとのことです。(あなたの会社も・・・)

 この新会社設立の話は、2005年の暮れ12月26日に発表されました。武田薬品の子会社売却(医薬以外部門)は、武田食品を残すのみでしたので、予想はしていましたが、急な話でした。しかも、H社は想定外だったのでびっくり。

 そのとき、私がとった行動は・・・? とりあえず、特許データベース(DB)につないで、H社の出願特許を調べ、その後、文献DBで学術論文をチェックしました。(そのとき、H社の研究員は、逆にこっちのことを検索していたはず・・・。)

 さて、特許DBは、特許調査(先行技術・権利・侵害調査)の目的だけでなく、他社の研究動向、研究力、共同研究先などを把握することにも使用できるツールです。企業調査や商品のコンセプト立案時(想定外の使用方法を発見)などにも特許DB調査は大変役に立ちます。

 また、特許検索をしていると、たまに掘り出し物が見つかります。たとえば、最近入手した特許文献は、実施例(実験方法と結果)が細かく記載されていて、学術論文だったら『as previously』と済まされるような手法までが、詳細に記載され、しかも日本語。試薬と道具さえそろえれば、この実験はすぐに再現できそうです。

 文献は学術誌だけではない、を再認識。そういえば、学生時代に、特許文献は調べなかったな。でも、やっぱり特許文献はノイズ(不要なやつ)が多くて困ります。

 ちなみに、最近私が愛用している特許DBはヨーロッパ特許庁のesp@cenetです。これがファーストチョイスで、その後に日本語でJP-ROMとかパトリスなどから検索します。NRIサイバーパテントは便利そうなのだけど、弊社では未使用です。esp@cenetは、テキスト検索はアブストとタイトルからだけですが、無料でかつ、日本の特許を英語で検索できるのが魅力です。日本語は、ひら、カナ、漢字が入り乱れていて、検索が大変ですから。

 しかしながら、普段の利用では、PubMedやJOISなどの学術誌検索のほうがやっぱり多くなります。Google Scholarも重宝しています。これは、検索結果が引用数の多い順にリストされるので便利です。(著者名を入力して引用数バトルもできます。)

 ところで、英語で検索といえば、適当に入力したら、もちろんスペルミス。にもかかわらず、ヒットすることがあります。こういうのは、著者のミス、出版社のミス、あるいはDB入力時のミス(今はないと思います。copy & paste, import, exportができるので)が、DBに反映してしまったからでしょう。だから、DBや検索エンジンの中には、YAMAMOTOさんとYAMAMPTOさんがいるのです(OとPは近いから)。これを言い出すと、いくらでも出てくる・・・。

 最近、発見したスペルミスでは、・・・

 60年代に日本人研究者が天然物から新規化合物を単離精製し、この化合物に命名して和文誌に発表しました。どうやら、これがChemical Abstract(今の学生さんは、ケミアブを知らない人が多いかもしれません)に収録されるときに、たぶん、誤入力されたようです(活字の時代だから誤植でしょうか)。さらに、この化合物は、そのミススペルのままでCAS No.が付番されました。そして、その和文誌は、最近になってPubMedに収録されたので、PuBMed中の論文タイトルには原著のままのスペルがあります。

 したがって、この化合物をPubMedで検索しようとして、一方の化合物名で検索したら、もう一方の化合物名の文献はみつかりません。ところで、この化合物、どっちが正しい名称になるのでしょうか?

 それにしても、最近のDB・検索エンジンはすごい。ミススペルで入力しても候補の単語を提示してくれるようになりました。

 すでに、ウェブ上のGoogleなどの検索エンジンは、文献検索利用の形を変えているそうです。例えば、学術誌へのアクセスは、GoogleからのリンクがPubMedからのリンクを凌駕しているとのことです。(N Engl J Med 2006; 354:4-7より)

 昔は、図書館にこもってひたすらChemical Abstract。そして、パソコンが普及してきたら、接続時間にドキドキしながらのダイヤルアップDB接続。ネット時代になってからは、もちろん、らくちん、Web検索。IT技術・AI技術に、感謝・感謝です。

 でも、今の学生さんは、「図書館でケミアブしてきます」を口実にして、ラボを(学校を)抜け出すことができないですね。

 

33.福田伊津子(神戸大学)『コミュニケーション』2006年08月28日

 「分からないことがあれば、質問してください。」—教育現場でよく耳にするフレーズではないだろうか。しかし、特に初めて教わることに対しては、「分からないことが何なのかが分からない」と感じたことは誰にでもあるだろう。「分かっていないこと」を自覚していないこともあるだろう。教わったことや調べたことのうち分かったことと分からないことを判別するためには、当然のことながら、対象となる情報を自分の言語に置き換えて理解する作業が必要である。この作業ができないまま、あるいはしたつもりで「分かったつもり」になっていることも多い。

 普段から何気なく使っている言葉も「分かったつもり」で使用していることがある。ふと、「この言葉、この場面で使っても大丈夫だろうか、使い方は間違ってないだろうか」と不安になり、広辞苑を引くことが時々ある。また、一般の方だけでなく同じ研究者でも異分野の方たちに向けて自分の研究を説明するとき、自分では違和感なく使っていた言葉が専門用語であることに気付かされ戸惑うことがある。日本語でさえこの有様だから、英語となるとネイティブスピーカーとの微妙な(大きな?)表現の差異がたくさんあるのだろうと思うとゾッとする。英語で書いた論文を校閲してもらうときも、こちらが表現したいニュアンスが伝わっていないことがあり、的確な表現がいかに難しいか痛感させられる。

 このように分からないことをそのままにしていたり、あるいは伝えたいことの表現が的確でないために相手に正しく伝わらなかったりすることは多い。そのために不安や不信が生じ、またこれを悪化させてしまうこともあるかも知れない。これを改善するために重要なことはお互いにとって「共通の言語」で話すことだろう。もちろん、この「共通の言語」は、ただ単に日本語を話すという意味だけではない。お互いが歩み寄って理解し合える点を探し、コミュニケーションをとることが大切だと思う。どのようなことでも共通の理解ができれば、不安が軽減して「安心」できるのではないだろうか。「安心」できる社会構築に微力ながら貢献できるよう、自分が無知であることを自覚して自意識過剰にならないように、「知る」作業の一つである研究に邁進していきたい。

 

34.菊崎泰枝 (大阪市立大学、現奈良女子大学)『研究と教育にまつわる話−私の場合』2006年10月02日

 こんにちは。大阪市立大学生活科学部食品栄養科学科の菊崎です。(なんだか堅苦しい導入ですねー)。どんなお話をすればよいかとこれまでの皆様のコラムを読ませていただき愕然としました。自分には皆様のように自信をもってお話できるネタがない!日々の仕事をこなすのに精一杯という自分の生活のツケですね。ということで、自分自身の研究や教育にまつわる話を少ししてみようと思います。

 私の研究は一口で言うなれば天然物化学的手法を用いた「食用植物に含まれる機能成分の化学構造の解明研究」です。成分をひとつひとつ分離して構造を決める...なんとも地味な仕事です。おまけに機器分析の技術レベルが向上した現在、とくに分子量1000程度までの低分子では、骨格そのものが珍しい構造でない限り、たまたま置換基や置換基の配置が異なって新規だったというだけでは論文として受理はされません。要するに機能性という付加価値が必要ですが、細胞や動物を使った機能性評価系をもっていない(能力も設備も!)私としましては、「試験管レベル」での効果を調べて何の役に立つの?という声に肩身が狭い思いをしつつも「試験管レベル」での評価をしているのが現実です。ということで「細胞レベル」「動物レベル」での評価は共同研究という形で進めておりますし、今後もそのような体制でいけたらと考えています。もし学会の発表等で化合物にご興味をおもちいただけたら、お声をかけてください!自分が構造決定した化合物に素晴しい可能性を夢見ながら、自分自身は基礎研究しているといったところでしょうか。

 さて、私の所属学科は管理栄養士、栄養教諭の養成施設でもあります。私自身は有機化学や食品化学実験を授業担当する一方で栄養士関連科目の授業、実習を担当しています。実務経験があるほうが望ましいということで、現在いろいろな給食施設で定期的に研修をさせていただいています。そのなかで印象に残っていることのひとつが「健康な高齢者」がもっとも「食」や「健康」に関心をもっており、「健康な青年層(とくに男性)」がもっとも関心がないということです。「...は健康によい」という情報に過剰反応をするのも問題ならば、好きなものを好きなだけ食べ、自分の食生活を気にも留めない次世代を担う10代20代の人の食生活はもっと大きな問題と感じました。鉄は熱いうちに打てといいますが、小中学校での「食育」の重要性を痛感した次第です。自分の食生活を考えるということを習慣として身につけることが必要だと思いました。厚生労働省は生活習慣病予備軍や軽度疾患者の25%削減を目標に掲げ、管理栄養士を含む医療保険者の健診・保健指導の義務化を進めています。「食育」にしても「保健指導」にしてもますます管理栄養士の資質と手腕が問われることになりそうです。そのなかで大学ではどのような教育をすべきなのでしょう。栄養士の職場では即戦力になるような実務につながる教育が望まれており、栄養士関連科目の授業実習が多いカリキュラムのなかで基礎科目や卒論研究の時間の確保も以前より難しくなりました。一方で大学院大学でもあるわが大学では研究の充実、向上、研究者の育成も目標にしなければなりません。あちらが立てばこちらが立たず状態ともいえます。しかしよく考えてみると、厚生労働省のめざす管理栄養士像は、企画−立案−実行−評価ができ、科学的根拠に基づいた保健指導の教材の開発や指導法の改善能力を有する人材。ということは卒論等の研究はまさしくそれらの能力を養うものではないか?そう、大学での研究指導は優れた管理栄養士を養成するのにも大きな意味がある!とひとり納得している今日この頃です。

 

35.藤野哲也 (琉球バイオリソース開発(株))『食物繊維の重要性』2006年10月25日

 食物繊維と言われて皆様は何を連想されますでしょうか。「栄養素の一つ」、「便通改善」、「野菜」などなどあがるかと思います。平成16年度に厚生労働省は重要な栄養素として摂取目安量を改変しております。成人男性で1日の摂取量を27gとするとなっておりますが、これをキャベツから摂取しようとすると1.5kgを食べなければなりません。これは1玉半から2玉に匹敵する量です。3食に分けて食べたとしても満腹になってしまいますよね。だけどこれだけの食物繊維を摂取しなければ健康体を保つのは難しいということです。

 私は沖縄に移住して早17年目。沖縄は健康長寿の県であると騒がれて久しいのですが、実は非常に大きな悩みをかかえており、それは県民病といってもいい、肥満なのです。実はこれが急増しているのです。こちらの新聞では毎日のように特集が組まれ、メタボリックシンドローム予防について食事、運動などあらゆる方面から取り組みを促しております。沖縄の食事といえば豚肉や昆布といった海藻が主だと認知されている方が多いかと思いますが、それは大きな間違いです。内情はというと、朝からファーストフード店にはおじーやおばー(おじいさんやおばあさん)がお孫さんを連れてハンバーガーやポテトフライを食べているのです。本土ではほとんど見られない光景が沖縄にあるのです。この結果が社会保険庁が発表したデータに如実に現れており、肥満罹患率第1位は沖縄県、2位は北海道となっております。しかも、沖縄の肥満率は46.9%となっており、2位の北海道を大きく引き離しております。現代日本人の食物繊維摂取量は平均で約14gと言われておりますが、沖縄県は約13gしか摂取していないとのこと(平成15年度県民健康調査より)。さらに沖縄には電車が走っていないため、ちょっとそこまで!という用事でも自動車を使ってしまうことが多いのです。従って、沖縄の肥満は運動不足+高カロリー食事という「Wの悲劇」に起因しています。

 沖縄県の県民性として「ゆいまーる」という助け合う風潮があり、県産品をこよなく愛しております。そこで、我々は考えました。沖縄の肥満を改善するためには、沖縄の素材で「食育」しなければならないと。沖縄の素材で食物繊維が豊富なもの・・・。サトウキビなのです。私たちはサトウキビから砂糖を絞ったあとの繊維の固まりを利用して不溶性食物繊維と水溶性食物繊維を併せ持った新食物繊維を開発し、これを学校給食の場、病院食の場、一般家庭の場に取り入れていただくよう講演会などを開催し、「食育」に努めております。取り戻そう、健康長寿県沖縄!!

 

36.前田剛希 (沖縄県工業技術センター)『伝統野菜について想う』2006年12月01日

 び方だけで上品で繊細な感じを漂わせているのに対し、沖縄の野菜は見た目原色で豪快なイメージ、暑苦しささえ感じそうないかにも熱帯の野草、みたいなものが多い。しかもゴーヤーを始め、ヨモギ、ニガナ、サクナなど苦くて癖の強いものが多い。旨いというよりは“にが旨い”。この類の野菜は抗酸化能が強い野菜としてよく取りあげられるし、伝統野菜の中でもメジャーな部類に属する。私自身研究材料として機能性を評価している。でも、沖縄の野菜には他にもまだまだ面白いものがある。

 中でも個人的なお気に入りは、石垣島のアダンとオオタニワタリである。こちらは機能性がどうのこうのという類のものではなく、純粋に食べ物として面白い。しかもとても旨い。アダンは、沖縄では海岸に行けば普通に見られる一見ソテツのような植物。パインに大きさも形もよく似た実を付けるのだが、実は食べずに新芽の部分を炒めて食べる。これがまた絶品なのである。わかる人にしかわからない例えだけど、タイで食べたヤシの木の新芽を炒めたものとよく似ている。オオタニワタリは海岸近くの岩場や山の斜面などに生えているシダの仲間で、こいつも新芽の柔らかい部分を天ぷらにしたり炒めて食べる。シャキシャキとした堅めのレタスみたいな味の野菜で非常に旨い。もちろん泡盛、ビールのお供に最適である。他には宮古島にパパイヤの芯なんてものがある。どれも実を食べとけばいいじゃないのと思いがちな食べ物だが、ここら辺の利用法は、椰子の木の新芽や、バナナの花など、食べられそうな部分は全部食べてしまうという東南アジアの食文化が影響しているのだと思う。

 物珍しさも手伝ってか、こういったマイナーな沖縄伝統野菜もマスコミに時々取りあげられているようだ。京野菜の例で、伝統野菜に大きな経済効果を産み出す可能性があることが立証されたおかげで、マイナーな伝統野菜でも研究対象として取りあげやすくなった。沖縄県は平成16、17年度に伝統的農産物の振興目的の事業を実施し、私も冒頭に述べた野菜を使って研究する機会を頂いた。この事業では、「沖縄県伝統的農産物データベース」という沖縄伝統野菜をレシピ付きで紹介するなんとも楽しげなページを作成し、県のHPで公開している。興味のある方はご覧になっていただいて、ついでに、沖縄まで伝統野菜を食べにきてもらえると何よりである。

 こんな風に、私が伝統野菜のことを取りあげるのは、素材そのものが研究対象として面白いのはもちろんだけど、地域の食文化、食材を守るための一助になればよいと考えてのことでもある。とにかく名前を出して取りあげることが大事なのである。他の地域も、伝統野菜を研究材料に取りあげてどんどん宣伝して盛り上げていって欲しい。地域の珍しい食材・食文化の継承にも繋がることだから。

 なんて事を書くと偉そうだけど、本音を言うと北海道特産の蝦夷わさびてんこ盛りのわさび飯や、京都で食べた万願寺とうがらしの網焼き、オオタニワタリの天ぷらなどの珍しくて旨い食べ物を食べられなくなるのが嫌なだけの食いしん坊的発想なのである。

 

37.沖 智之 (九州沖縄農業研究センター)『紫サツマイモを知っていますか?』2007年01月10日

 はじめまして、九州沖縄農業研究センターの沖です。縁がありましてコラムを書かせていただくことになりました。私の所属する機関は最近頻繁に名称が変更され馴染みがないと思いますので、まず九州沖縄農業研究センターについてご説明いたします。当センターは、「食料・農業・農村に関する研究開発などを総合的に行う我が国最大の機関」である独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の一員であり、熊本県合志市(熊本市の隣)に位置します。そして、九州・沖縄地域の自然条件や社会条件と調和した農業・農村の発展、消費ニーズに即した品目生産と品質向上をめざした農業における総合的生産力向上のため、農業に関わる幅広い分野で試験研究を展開しています(当センターホームページから引用)。

 さて本題ですが、南九州地域の基幹作物の一つにサツマイモが挙げられます。皆様が良く知っているサツマイモは皮色が赤紅で肉色が黄色だと思いますが、南九州地域では肉色が白色の澱粉原料用のサツマイモが栽培されています。澱粉の輸入自由化に伴い、新需要の創出が要務となったという背景から、当センターの前進である九州農業試験場では、新形質のサツマイモとして肉色が紫色の品種「アヤムラサキ」を育成しました。コラムを読んでいる皆様、肉色が紫色のサツマイモを店頭で見たことがありますか?紫サツマイモを使ったお菓子をご存じの方もいると思いますが、実はもっと意外な形で身近に存在しているのです。

 紫サツマイモの紫色の本体は8種のアシル化アントシアニンであり、その特徴的な構造により光や熱に対する安定性が高いなど食品産業上、優位な特性を持っています。そのため天然色素として様々な食品に使用されるようになっています。食品の原材料には「ムラサキイモ色素」「アントシアニン色素」「野菜色素」「着色料(アントシアニン)」のいずれかで表示されているのですが、「ムラサキイモ色素」以外では、紫サツマイモを使用されていることが分からない表示になっています。グレープをイメージした飲料にも使用されていますので、紫色をした食品がありましたら、是非手に取っていただき、原材料をご覧下さい。皆様の身近に紫サツマイモが存在していることに気が付くと思います。

 またサツマイモの加工は多岐に渡っていますが、ご存じのとおりサツマイモは本格焼酎の原料にもなります。芋焼酎の原料として有名なサツマイモは「コガネセンガン」という皮色と肉色が白色の品種です。しかし最近になり紫サツマイモを用いた焼酎が登場しました。紫サツマイモの焼酎はこれまでの芋焼酎と異なり、ワイン様の風味がすると評判であり、新宿ではある銘柄の焼酎を購入するために300名の行列ができたとの噂も聞きます。当然ですが、焼酎は蒸留酒であるために、紫サツマイモの特徴であるアントシアニンは焼酎には移行しませんので、紫サツマイモから造っても焼酎の色は紫色にはなりません。そのため原材料を確認するなどしない限り、紫サツマイモで醸造されていることに大抵は気付きません。

 このように私たちのセンターで育成した紫サツマイモ品種は製品となり、世の中に届いているのですが、紫サツマイモが使われていることが分からない形態で存在しているものもあります。紫サツマイモのアントシアニンには肝機能改善効果があることが知られていますが、色素として添加されている程度の量では効果は期待できませんし、紫サツマイモが原材料と雖も紫サツマイモの本格焼酎では以ての外ですので、悪しからずご了承下さい。

 

38.玉屋 圭 (長崎県工業技術センター)『自己紹介させて下さい』2007年02月05日

 はじめまして、長崎県工業技術センターの研究員の玉屋と申します。九大大学院の博士課程を修了し、センターに入所してからはや5年になります。長崎市出身の私は、大学を出た後は中央の食品企業で働きたいという気持ちを持つ一方で、何らかの形で地元に貢献できたらという希望をおぼろげながら持っていました。博士課程終了間際の11月頃に県の職員募集に関する情報を見つけたことから、思い切って受験してみたところ、幸いにも採用して頂いた次第です。

 私は、センターでは食品・環境科という部署に所属しており、日頃は県内企業の方々からの食品に関する技術的な相談や研究開発といった業務を行っています。県内には、出荷額が120億円を超えるめん類 (島原の手延べそうめん、五島の手延べうどん等)をはじめとして、壱岐焼酎等の特産品の産地があります。また、長崎は周りを海に囲まれた水産県でありますので、水産加工品の製造も盛んに行われています。私たちは、地元食品企業の方々の要望・ニーズに対応して、製品開発のお手伝いや加工食品の依頼分析に毎日励んでいます。近年は、海藻 (ひじき)を練り込んだ麺や地元農水産物 (わかめ、ビワの種子等)を用いた豆腐・こんにゃく製品の開発、そうめんのカップ麺製品化などにご協力させて頂きました。

 企業の方とともに製品開発に取り組む支援業務だけではなく、私たち研究員は研究テーマも持っています。私たちは平成17年から、緑茶、ビワの葉といった本県産の未利用資源に含まれる機能性成分を活用した健康茶の開発に取り組んできました。これまでの検討により、緑茶番茶とビワ葉を混合し、揉む操作を行うことにより、機能性を高めた茶葉の製造法を確立できました。九州大学農学研究院、長崎シーボルト大学看護栄養学部に共同研究をお願いし、本茶葉が血糖値上昇抑制作用を有することを動物レベルで確認しています。緑茶及びビワ葉はこれまでの研究で血糖値上昇抑制作用を有することが明らかになっていますが、本茶葉はこれら素材よりも優れた効果を有していることも見出しました。

 今後は、茶葉に含まれる有効成分を明らかにし、茶葉の有する機能を解明できればと考えています。また、本研究に参画している食品企業の方々とともに製品試作を実施し、健康機能性だけでなく、味、香りといった嗜好性も検討する予定です。

 今回はセンターでの業務を簡単にお話ししました。とにかく今は、企業の皆さんのお役に立ちたいという一心で仕事に取り組んでいます。ご期待に応えることはなかなか難しいのですが、「地道にやればいつかは喜んで頂ける」と自分に言い聞かせながら頑張っています。

 

39.吉村臣史 (佐賀県工業技術センター)『食べ物の好き嫌い』2007年03月08日

 みなさま、はじめまして。佐賀県工業技術センターの吉村と申します。このコラムは、いろいろな県の公設試の方がお書きになっているようですので、当センターの業務については、簡単にご説明させていただきますが、他県とほぼ同じく、県内企業さんへの技術支援(技術的な相談に応じたり、技術的な指導を行ったりします)や企業さんからの依頼による試験・分析の実施、研究開発が主な仕事となっています。コラムの執筆について、お話が来てから、このコラムを拝見させていただきましたが、「やばい、書ける内容がない!」、というのが率直な感想でした。ということですので、このコラムの主旨にあうかどうかわかりませんが、私が書いてみたいことを書いてみようと思います。

 人にはそれぞれ、食べ物の好き嫌いがあると思います(何でも食べられる、という方も当然おられるかとは思います)。生理的に受け付けない、食べてみたけど味が合わない、食べず嫌い等々。実を言えば、私は好き嫌いがかなり多い方です(かなり偏食気味です)。主観的な観点から、同じ種類の食べ物でも食べることのできるものやできないものがあったり(乳製品であっても、バターはダメ、牛乳はダメ、ヨーグルトはまだ大丈夫等々。周りからは、「好き嫌いの意味がわかりません」と言われることがしばしばあります)と、人それぞれだと思います。栄養学的考え方からは、当然動物性や植物性素材を広く摂取すべき、ということはわかるのですが、やはり、好き嫌いが一番の判断材料になってしまうので、私個人的に経験上どうにもならないように感じています。みなさまはいかがでしょうか?私は、お酒を飲むのは好きなのですが、鶏肉やバター,チーズなどが好きではないので、居酒屋などであがっているおつまみは、半分(言い過ぎですが)ぐらい食べられないものになってしまいます。周りからは、「こんなおいしいものを何で食べられないのですか?」、「こんな栄養のあるものを食べずによくそこまで育ちましたねー。」等々頻繁に言われます。まあ、自分としてはこれまでそのような生活をしてきたので、致し方ないような気もするのですが。ただ、年々年をとってくると、栄養バランスよく食べ物を取らないといけないな、と考えているのも事実です。やはり、偏食がいろいろな疾病を惹き起こす可能性が高いことからも、偏食の多い方は栄養バランスよく、食事をとるようにしましょう(人に話す前に自分で動かなければいけませんが・・・)。乱文失礼いたしました。

 

40.野間誠司 (九州大学)『シンプルということ』2007年04月06日

 「シンプル」という言葉は非常によく使われる言葉である。この単語の意味自体は「単純な」とか「簡単な」といったものだが、一般的には「非常にすっきりとしているが、不足もない。つまり過不足無く極めて高度に整理されている状態」を言い表す場合が多いと思われる。この意味の「シンプル」に到達するのはそう簡単なことではない。

 一流スポーツ選手のフォームをみると、これぞシンプル!と言わざるを得ない。力強いが力みは感じられない。また、ひとつひとつの動作にまったく無駄がなく、見た目も非常に美しい。例えば中日ドラゴンズの福留孝介選手。彼のバッティングフォームを見ると、バットがボールに対してスムーズに出てきて、体の力がボールに的確に伝わっていることは野球に関して全くの素人である私にも分かる。先日、試しに福留選手のように打つ自分をイメージしてバッティングセンターの打席に立ってみた。力強くバットを振ろうとすれば力んでしまってバットが波打ち、スムーズに振ろうとすればスイングが遅くなり打球に勢いが無い。イメージとは全く違う単なるヘタの横好き。散々な結果であった。物事には才能という側面があることは否定できないが、彼のバッティングが、練習に練習を重ねた結果、無駄がそぎ落とされ、必要な要素のみが残ったものであることは想像に難くない。

 さて、野球の話に終始するわけにもいかないので少し研究の話。研究発表を聴いたときに「シンプル」と感じるのは、厳選された結果の説明が結論に向かって直線的に並ぶ場合である。当然このような話は一朝一夕で出来上がるものではなく、背後には日の目を見なかったものの結論への到達に貢献した膨大な量の研究結果が隠れていることは容易に想像できる。手持ちの検討内容が十分でない場合、結論が「~であると考えられる」「~であることが示唆される」などと弱腰の言い方にならざるを得ない。不確定要素が重なると話の焦点がぼやけてしまうし、推論の上に推論を重ねることになってしまいかねない。このような状態では聞き手に主張したいことを伝えるのはなかなか難しい。結局のところ研究の世界においても「シンプル」にたどり着くためには、時間をかけて地道に取り組むしかない。

 現在の職について1年。新しい研究テーマに取り組み始めてやっと基礎データが集まりだした段階である。研究に携わるものとして、日々精進を重ね、できるだけ早く「シンプル」と感じてもらえるような段階に到達したいものである。が、まずは私の研究発表に対し「(少々無理した感じで)・・・う、うん。シンプルでよかった。」というフォローだけはもらわないようにしたいと思う今日この頃である。